Leprosy / ハンセン病

ハンセン病は、皮膚と末梢神経を主な病変とする皮膚抗酸菌感染症です。
発展途上国を中心に患者が存在し、未だ年間20万人近くの新規患者が発生しており、WHOも疾病対策に力を入れている重要な疾患の一つです。
ここではハンセン病に関する病態や疫学、問題点について詳しく述べます。

ハンセン病とは

ハンセン病は、らい菌 (Mycobacterium leprae)を起因菌とする慢性皮膚感染症です。
また、WHOが指定する⼈類が制圧しなければならない「顧みられない熱帯病 (Neglected tropical diseases: NTDs)」の1つです。
ハンセン病はWHOが推奨する抗生剤を用いた多剤併用療法(MDT)によって、多くの場合一年以内に治癒が見込まれるようになりましたが、治療が遅れた場合は、運動神経および知覚神経の障害による永続的な後遺症を残し、生活の質(QOL)が著しく低下してしまう感染症です。
さらにこれらの後遺症によって偏見や差別を受けることもしばしばあります。これらを防ぐためには早期診断法の開発が急務です。

疫学

1980年代に開始されたMDTによって患者数は大きく減少しましたが、現在でも120カ国以上で毎年20万人近くの新規患者が報告されています。最近10年間程度は新規患者数の減少に歯止めがかかっている状態で、2022年のデータでは、新規患者数はインド (103,819人)、ブラジル (19,635人)、インドネシア (12,441人)の順に多く、主に東南アジアやアフリカに患者が多く存在しています。

引用:World Health Organization. Number of new leprosy cases. 2023-09-12


World map of Leprosy.2023-9-12

実態

後遺症の発生を抑えるためには、早期診断早期治療が何より重要です。しかし、ハンセン病の確定診断に必要ならい菌DNAを検出するPCR法は、ハンセン病が蔓延する国々で実施することは技術的にも経済的にも困難であり、皮膚の肉眼所見と知覚低下などの臨床診断に頼っているのが現状です。
また、WHOが推奨する疾病対策として、ハンセン病患者の発生した周辺地域に行われる抗生剤の単回投与 (Single-dose rifampicin post-exposure prophylaxis: SDR-PEP)は、感染拡大の防止に大きく貢献することができますが、一方で薬剤耐性らい菌の発生リスクを高めるなどの問題があり、この方法が最善かどうかは未だ議論の中にあります。
本研究プロジェクトであるCRADAR-iは、電源や特別な装置や技術を要さない核酸迅速診断キットです。また、薬剤耐性らい菌を検出するための遺伝子の点突然変異の検出も可能であり、ハンセン病疾病対策のブレークスルーとなる革新的な技術です。